深夜1時。
いよいよベースキャンプから山頂に向けての登頂開始。
押しつぶされそうな不安な気持ちを振り払うように気合いを入れて準備を進める。
外に出てみると、上空に近いという事もあり、いつも見る星より大きく輝いて見える。
綺麗だな…。
外は標高が高いという事もあり、とてつもなく寒いのでしっかり準備して行かなくてはならない。
手袋や、マフラー、上着に下着。
しっかりと着込んで準備を進める。
雪山をひたすら登って行くので、しっかり靴底にはザックをはめ込み、ヘルメットにはヘッドライトもしっかりはめ込む。
さて、いよいよ出発。
オーストラリア人2人にガイド1人。
フランス人2人にガイド1人。
僕1人にガイド1人という組み合わせで開始する。
全く前が見えない真っ暗闇。
ヘッドライトを頼りに進み始める。
順調だ。
腰が思った以上に悪くないし、高山病も若干回復出来ている。
順調に、ひたすら雪道を進んで行く。
はぁ~、はぁ~…。
はく息はもちろん、真っ白の中、どこまで進むのか分からない道を永遠に進んで行く。
話に寄ると、5時間程で到着するようだ。
5100mの世界から6100mの世界へわずか5時間で一気に上がってしまう訳だ。
高山病が心配なのと、全然、想像がつかない世界が待っているだけにさらなる不安の心がつきまとう。
前日に見た、体のコントロールが効かなくなった人を目の前で見てるだけに、自分が同じようになったらと考えると、とても怖いものだ…。
徐々に高度を上げて行くに連れて、細い道になったり、傾斜が急になってくる。
高地という事もあり、想像以上にすぐに息切れを起こしてしまうし、傾斜が急になればなるほど、腰に痛みが走り徐々にスピードに遅れをとり始める。
自分のペースで進もう。
無理してもダメだし、周りに流されずに…。
欧米人はガタイも良いし、同じように考えちゃダメだ。
徐々に進んで行くと、やがてラパスの夜景が見えてきた。
キラキラと輝いている。
なんて綺麗なんだろう…。
カメラで撮りたいとこだけど、なぜか寒過ぎるせいか古いせいか分からないけど、カメラのシャッターが開かなくなった為、肝心なところで写真を撮る事が出来ないという悲しい現象が起きている。
1時間、2時間と進んで行く。
まだまだ先は長い。
山に登りながら、いろんな感情がこみあげてくる。
気持ちの面で弱かった頃の昔の自分。
そして今の不安な気持ちなどをその時の感情と重ねるように。
どうやったら人は気持ちの面で強くなれるんだろうね。
本当に不安な気持ちや緊張がMAXに達した時にそれを乗り越えようとする気持ち乗り越える力。
何度も窮地に立たされる経験をする事で強くなれるのかな。
スポーツの世界でもそうだけど、どんなに技術があってもメンタルが弱い人は上に上がれない。
そういうシビアな世界で勝ち抜いている人達が本当のプロのスポーツ選手なんだろうな。
まだまだ自分には弱さがあると、追い込まれて改めて気づかされる。
少しずつ、いろんな経験をして、さらに強くなっていかなくちゃね…。
5500m時点を過ぎ、さらに急な坂が自分自身に立ち向かう。
いままで歩き続けてきたペースも徐々にスピードが落ち始め、少しずつ休憩を取り始めている自分がいた。
歩き続けてる事で体内から汗が放出され熱気を帯びていた体内も、ペースが落ち休憩を増やす事で、体温が序徐々に下がり始めている事を感じた…。
ヤバいな…。
少しスピードあげて行かないと本当にヤバい…。
5600mという想像がつかない世界は予想以上に寒く、凍てついている…。
5700mに達した時だったか…。
完全に体温が外気に吸い取られ、手が一気に冷え込む…。
ヤバい…。
自分が耐えれるレベル以上に手が凍てつき、コントロールがつかなくなってる…。
手を動かそうとするが、想像以上に手が、かじかんでしまい、コントロール出来ない…。
冷たさで痛みが生じ始めてる…。
ヤバい…。
今まで体感した事無い痛さと寒さに、テンパり始める…。
いや、完全にテンパっていてパニック状態に陥る…。
ガイドはまだ僕の手の状態を完璧には把握しきれて無く、どうしたんだとこっちに近づき始める…。
急いで予備の手袋をバックパックから取り出し、はめようとするが全くコントロール効かずに、さらにパニックに陥る…。
ヤバい…本当に手がヤバい状態になってる…。
もしかしたらすでに凍傷を起こしてるかもしれないが…感覚が分からずに、全く状態が分からない…。
ガイドに急いで手袋をはめてもらい、ポケットの中で暖める。
その時点で自分の中で覚悟は出来ていた…。
これ以上、上に行く事は出来ない…。
目の前には大きな山が立ちふさがる。
さらなる傾斜が待っていて、これ以上先に進むにはザックが必要になるし、もちろん両手を使わなくてはならないエリアも出てくる…。
ガイドがこれ以上進む事が出来ない事を僕に告げる。
覚悟していたから、すぐに受け入れる事にした。
それを聞いて、もしかしたら、心の中でこれ以上、キツい事をしなくて良いという安堵感が1番最初に出てたのかもしれない…。
やはり気持ちの面で負けていた…。
高山病、腰痛、不安…いろんなマイナス要素に打ち勝つ事が出来なかった…。
それどころか、安堵という弱い気持ちが出てしまってる…。
帰りは坂道という事もあり、登りの3倍近い早さで下山して行く。
一生懸命登った坂道を、簡単に下山して行く自分自身がなんだか虚しくなってきた…。
自分自身の心に負けてしまった…。
悔しさが急に込み上げてきて、あたり真っ白の雪山で大泣きした。
本当に限界だったのか…。
まだやれたんじゃないか…。
いろんな悔しい気持ちが込み上げてくる一方で、もし手が完全に壊死してしまったら将来的にどうなってたんだろうかと、いろいろと考え込んでしまう。
手が使えなくなったら…、帰国しても仕事ができなくなる…。
改めて手が自由に使える事の有り難みを感じた。
ポケットの中で暖めてたおかげか、若干のしびれはあるものの、右手に関しては問題無さそうだ。
左手はいまいち感覚が戻らない。
とりあえずベースキャンプに戻ってから確認しなくては。
帰り道は、手をポケットの中で暖める事を優先して、手持ちザックを使わずに進んで行く。
別の山々を見渡しながら徐々に下山して行く。
また、行きと同じようにラパスの夜景を眺めながら…。
早くラパスに戻ってゆっくり暖まりたいな…。
行きと同じようにやがて細い道に差し掛かり慎重に進み続ける。
その時だった…。
順調に歩きながら交互に交差してた僕の両足…。
その片足の靴底にしてた金属のザックが、もう片足の靴底にしてあるザックに引っかかってしまった…。
一瞬、ヤバいと反応したが時既に遅し…。
一気にバランスを崩して雪山から落ちてしまう…。
ヤバい…。
そう思った一瞬の事だった…。
ガイドがとっさに反応し、お互いのお腹に巻いていた命綱を一気に引っ張る。
それと同時に命綱は一気にピンと張り、僕はその命綱に助けられた…。
ドキドキ…。
本気で危なかった…。
もし、そのまま落ちてたら骨折は免れなかっただろうか…もしくは勢い余って大きな石に体をぶつけるものなら、本当にヤバい事になってたんじゃないだろうか…。
いろんな状況を想定すると、改めて山の恐怖を実感する事になる。
その後は慎重に進み続け、行きの2~3倍近い早さでベースキャンプに戻ってきた。
ベースキャンプの中は外の冷気で冷えきっていた。
しばらく、今日起きた出来事に呆然と考え込みながら、座り込んでいた。
相変わらず、寒い…。
悔しさと安堵感が残る中、寝袋の中にくるみ、他のメンバーが帰って来るのを寝ながら待つ。
やがて、オーストラリア人の2人組が戻ってきた。
どうやら話を聞くと6000m付近で天候上それ以上、上に登れないとガイドが判断して下山してきたようだ。
でも、スゴいな…。
6000mまで登れたのか…。
改めて身体能力の高さを痛感した。
日本人の方も登られた方がいるみたいで、前日登った方から話を聞いたが、やはりリベンジだったりで最初に失敗して2度目で成功したらしく、そういう方も多いようだ。
ベースキャンプの中にもリベンジ成功!!などが書かれてあったりする。
でも、登りきれたのはスゴいな…。
朝になり、フランス人の2人組も戻ってきたのでみんなで下山を開始する。
手は若干のしびれがしばらく続いたものの、問題は無さそうだ。
その後、車でラパス市内に戻り、3日ぶりにシャワーを浴びた。
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